一つ忠告、『ちょっと一杯のはずだったのに』 にはあとがきがない!

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    『スマホを落としただけなのに』 が面白く読めたので、
    同じ作家さんの新作を読もうと思って、お出かけ前に
    最寄り駅近くの書店でチェックし、荷物になるから帰りに
    買おうと思っていたら売り切れ!
    俄然、何が何でも読みたくなってしまったのです。

     

    『ちょっと一杯のはずだったのに』(志駕晃著、宝島社文庫)
    は、サイコな犯人とかは出てきませんが、『スマホ』 同様、
    危機感のない、飲んだくれると記憶を失う、ましてや人を
    殺したかどうかもわからないほど酔っぱらう、危機管理能力
    のないラジオディレクターが登場します。

     

    『スマホ』 でも自分の周囲で怪しげな事件が起きても、
    その場しのぎの対応だけで、どうしてそうした災難に
    遭うのか思考停止している主人公の彼氏が登場しますが、
    こちらも事件の肝心な部分は、いずれも酔っぱらっていて
    捜査が難航し、イライラさせてくれるのでした。

     

    被害者は、人気漫画家でラジオの人気パーソナリティを務める
    女性で、ラジオディレクター・矢嶋より年上だけど恋人関係。
    しかも、被害者の首には矢嶋が彼女からもらったネクタイで
    絞殺されているわ、防犯カメラに殺害時間と思われる時に
    しっかり写っているし、殺したかどうかもわからないという、
    「お前、1回、アルコールを抜く更生施設に行け!」 と
    言いたくなるくらい、おマヌケな犯人100%状態。

     

    そこに、漫画家だった被害者の制作上の秘密や、この作品
    を映画化するなら一番目立つ役になると思われるユニークな
    変人弁護士・手塚も絡んで、手塚曰く “現代の日本で起きた
    本格的な密室殺人” の謎を追っていくことになるのです。
    手塚弁護士は、私の頭の中では大泉洋さんでした(笑)。

     

    密室殺人の謎解き説明部分はちょっと図解がほしい気も
    しましたが、この作品の場合、密室殺人はブラフで、
    作者にとっての真の見せ場は、その密室殺人の解明を

    デジタルを利用する部分ではないかと思われました。

    『スマホ』 の作者なのでそうに違いない(持論)!

     

    アガサ・クリスティー作品のNo.1ラストパクリが感動的

     

    犯人もわかり、「あれ、あの伏線回収はどうした?」 と
    気づいたところで、ラストに、アガサ・クリスティーの
    『ポケットにライ麦を』 を思い起こさせる仕掛けが。

     

    アガサ・クリスティー作品は戯曲集も含めて、おそらく

    読破していますが、ラストの衝撃度では 『アクロイド殺し』

    よりも 『ポケットにライ麦を』 の方が印象的でした。

    アガサ・クリスティー・ラストNo.1作品。当時は泣きました。

     

    『ポケットにライ麦を』 でも事件が解決した後に、犯人の
    写真が手に入りますが、こちらも犯人名がズバリと書かれて
    いるので、間違ってもあとがきを読もうとしてはいけません。
    本作にはあとがきがないのです。

     

    “ちょっとあとがきを読むつもりだったのに” という
    悲劇にならないよう、お気を付けください。

     

    【関連記事】
    ◇SNSが凶器となる 『スマホを落としただけなのに』

    http://nureinmal.jugem.jp/?eid=3656


    『東京近郊スペクタクルさんぽ』 が旅カテゴリに擬態

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      書店に行ったら、なんと 『るるぶ』 とか旅行関係の棚に、
      宮田珠己氏の 『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社刊)
      が置かれており、すっごい違和感オーラを醸していました。

       

      (擬態しているけれど、明らかに違和感を醸している)

       

      タイトルだけだと、あたかも首都圏にある、まだメディアの
      手垢がついてない “面白い場所” を紹介していると錯覚
      させるような、さすが大手出版社な装丁ですが、ちょっと
      違う気がするのです。

       

      宮田珠己氏の著書は、たしかに多くは旅がテーマということに
      なっていますが、行く先が大仏巡りだったり、やたらと
      入り組んだ構造の温泉旅館だったり、ひたすらジェット
      コースター乗りまくりだったり、海の変な生き物だったりと、
      チョイスも一般的な人が考える旅とは大きく乖離していて、
      行先での様子以上に、そのチョイスや、著者の視点の
      奇天烈ぶりと、個性豊かな同行者の描写の面白さにあります。

       

      『東京近郊スペクタクルさんぽ』 でも、地底湖やトンネル、
      勝手に著者が命名したジェットコースター・モノレール、
      配管迷路の工場、東京都にある砂漠など、帯にあるように
      “インスタ映えの向こう側を行く” スポットだらけで、
      少なくとも一人で行くと危険で “惨歩” となり兼ねない
      スペクタクルさ満載の読み物です。

       

      廣済堂出版の 『日本全国津々うりゃうりゃ』 シリーズに
      近い内容でした。こちらの編集担当・テレメンテイコ女史
      の方が同行者としては面白さが上かなと思われました。
      七福神で苦手で釣りと酒が好きらしい(著者の言い分なので
      イマイチ信用できない)テレメンテイコ女史の活躍を
      読むのが好きなので、『東京近郊スペクタクルさんぽ』 は
      ちょっと残念。

       

      ただ、たしか 『ウはウミウシのウ』 で、著者が同著を
      書店で探したら旅行カテゴリではなく、生物カテゴリか
      何かに分類されていて衝撃を受けたといったような感想を
      見た気がするので、『東京近郊スペクタクルさんぽ』 が
      旅行カテゴリに並べられたのは、本懐を遂げたと言える
      のかもしれません。

       

      Amazonもチェックしたら、一応、本>旅行ガイド・マップ
      >国内旅行となっていて、現状のコンピュータやクラウドの
      限界を見たような気がしました。キーワードに騙されては
      いかん! 少なくとも、旅行ガイドではないぞ!

       

      【関連記事】

      ◇六本木のど真ん中にある 「出雲大社」
      http://nureinmal.jugem.jp/?eid=531


      SNSが凶器となる 『スマホを落としただけなのに』

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        『スマホを落としただけなのに』(志駕晃著、宝島社文庫)
        が北川景子さん主演で映画化されるようなので、原作が
        どうであれ北川景子さんが出るなら映画館に行くど〜と
        思いつつ読みました。原作の段階で期待できそうでした。
        http://sumaho-otoshita.jp/

         

        恋人がスマホを落として、その連絡先に入っていた女性に
        拾ってくれた人から1本の電話が入り、無事にスマホは
        戻ってきたものの中のデータはコピーされていたことから、
        彼女の恋人や彼女の周辺で不信な事件が起こり始め…。

         

        その男はどうやらハッキングを得意とする連続殺人犯
        らしいことが読者にはわかるものの、結構のんびりして
        いる恋人と彼女にイライラさせられたり、それなりに
        いい着実な仕事をしているけれど真実までの道のりが
        長そうな警察にハラハラさせられたりと、当事者、犯人、
        警察の3視点からストーリーが進み、結末へ。
        よくあるミステリーのコピーではありませんが、一気に
        読める作品です。

         

        SNSを通してプライベートな情報が特定されていく恐怖と
        ネットのセキュリティの限界などの知識についても
        興味深く読むことができました。

        映画を観る前に原作を読んでおいた方が、映画でチラリと

        なってしまいそうなシーンも理解しやすいタイプの内容

        だと思います。

         

        スーパーひとしくんじゃありませんが、ラストミステリー
        となる、主人公・麻美の秘密が衝撃的。
        北川景子さんは原作イメージにピッタリなので、映画が楽しみ!
        ※かなり、個人の好みが反映されている感想です。


        多彩なテーマのショートショート集 『54字の物語』

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          ネットにも大量に画像が投稿されていますが、あえて
          『54字の物語』(氏田雄介著、PHP研究所刊)を購入しました。

           

          左ページには1行9文字の原稿用紙に6行分ぴったりに
          書かれたショートショート。
          句読点やカギ括弧も1文字としてカウントするのもルール
          の一つとなっています。
          https://www.php.co.jp/news/2018/03/54bungaku.php

           

          右ページには前ページの解説や、そのショートショートに
          対するコメントが書かれていました。

           

          たった54文字でも、ひねりのきいた作品や、SF調の作品、
          ちょっと笑えるオチの作品、リリカルな作品など、テーマも
          分散させた構成で、読んでいて単調にならない工夫がされて
          います。といっても、飽きるほどの文字数ありませんが(笑)。

           

          いくつか気に入ったのを挙げると、たとえば

           

          この森には全てを破
          壊する怪物が出ると
          いう噂があった。先
          日政府が樹木を全て
          切って調べたが何も
          いなかったそうだ。

           

          といった感じで、そのまま読むと 「ああ、いなかったのか」
          で終わってしまう文章も、想像力を働かせると、「この
          全ての森を破壊する怪物って!」 といった予言のような
          面白さが味わえるのです。

           

          「今までにない斬新
          なアイデアを出して
          くれ」と言われて提
          案した企画が却下さ
          れた。「前例がない
          から何とも言えん」

           

          この作品は本来その矛盾を笑うところですが、実際に
          リアルでこれに近いことは制作をやっていると遭遇するので、
          どちらかというと “あるある” ネタ。読む人によって
          それぞれ感想が異なる面白さがあります。

           

          そして、私が 「これのどこが面白いのか、どういう背景が
          隠れているのかわからん」 と匙を投げて、次ページの解説を
          さっさと確認してしまったのがコレ↓

           

          登校時と下校時でカ
          バンの重さは変わら
          なかった。今日は好
          きな人ができて初め
          てのバレンタインデ
          ーだったのになあ。

           

          単に持てない男子のつぶやきか、あえて 「カバンの重さ」
          で表現しているところに、チョコレート以外の何かが隠れて
          いるのかなど考えてもわからず。

           

          が、解説を読んだら、自分がいかに女心がわかっていないか、
          そういう視点が欠落しているかを実感させられたのでした。

           

          最後に、この54文字ストーリーの 「作り方のコツ」 が
          書かれていましたが、たしかに54文字ストーリーを上手に
          作れるようになったら、通常の文書力もアップしそう。

           

          「上手な文章の書き方」 的なノウハウ本を読むよりも、
          54文字ストーリーにチャレンジすれば、簡潔でウィットに
          富んだ文章が作れるような気がしました。


          条件が多い喫茶店 『コーヒーが冷めないうちに』

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            『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和著、サンマーク出版)
            を読みました。映画予告を観て、ちょっと気になったので。
            小さな喫茶店 「フニクリフニクラ」 のある席に座ると、
            過去に戻ることができるというお話し。

            最初は、女性作家の作品だと思っていたのですが、著者が

            男性だったのは意外でした。

             

            秋乃茉莉さんの 『Petshop of Horrors』 でも、D伯爵の
            怪しげなお茶を飲んで、確かあちらはその時に焚いている
            お香か何かが切れるまでに戻らないと現実に戻れない…
            みたいな話だったと思いますが、こちらの作品では、
            コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが
            冷めるまでにコーヒーを飲み干さないと、恐ろしいことに
            なりますよ〜というルールでした。
            http://coffee-movie.jp/

             

            過去に戻る場合のルールもいっぱい。
            「過去に戻っても、その喫茶店に訪れたことにない人には
            会うことができない」「過去に戻ってどんな努力をしても、
            現実は変わらない」、「あるタイミングの時しか過去に
            戻れない上、そのタイミングはランダムで1日1回だけ」
            と、かなり制限の多いタイムワープなのです。

             

            中でも、それぞれ過去に後悔があるからこそ、その時に
            戻りたいと考えているのに、現実を変えることができない
            というんじゃ、あまり意味がないんじゃ…というところが
            一番この作品の面白いところだと思います。

             

            「フニクリフニクラ」 で別れたカップルをはじめ、
            常連客は、水商売の女性、看護師の女性、旅行雑誌を
            ノートに書き写している男性、本を読んでいる女性など、
            それぞれの人生が、店の入り口の 「カランコロン」
            というカウベルの音と共に次第に明らかになっていく
            心地良さがあります。

             

            帯にあるように “4回泣ける” かは、かなり読み手
            次第だと思いますが、何となく先がわかっていても
            テンポよく読めるので、コーヒーよりも、興味が
            冷めない内に読み終えることができます。
            読後感が良いのは、設定が過去が変えられないからこそ。

             

            “泣いてデトックス系” ではなく、たとえ過去に戻れる

            喫茶店がなくても、後悔や過去の出来事から逃げずに

            直視して整理して、考え方を変えることで少なくとも

            未来は変えられるという明るさがある読後感でした。
             

            映画化に際しての希望は、あまりCGを使わないで
            ほしいこと、そして、できれば過去に戻れる席の
            エピソードゼロが原作よりもう少し多めに描かれて
            いるといいかと思われます。


            『老後の資金がありません』 で人生100年時代を考える

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              暑い夏、駅前の書店に寄って、ひと涼み。
              さらに、心の奥底から寒気を誘うタイトルの文庫が
              平積みになっていたので、手に取ってみました。

               

              『老後の資金がありません』(垣谷美雨著、中公文庫)。

              主人公は、50代の主婦なので、私的には感情移入しづらい
              設定ではありましたが、娘の結婚や舅の葬式での大出費、
              65歳まで働けると思っていた夫がリストラされ、さらに
              主人公もパートを切られ、高級老人ホームに入っている
              姑への負担費用を削減すべく、同居に踏み切り…と
              前半は暗澹とした、中高年ステージで想定される出費に
              ついて描かれています。

               

              お棺の値段はもとより、ドライアイス代1万円というのが
              異様にインパクト&リアリティがありました。

               

              さらに、結婚した娘の夫のDV疑惑や、フラワーアレンジ
              メント友達との生活感の違い、なかなか再就職先が
              見つからない夫など、もやもや感と “あるある感” が
              入り混じって、部分的に自分に置き換えて考えてみたり、
              「人生100年時代はこう生きるべし!」 的なハウツー物と
              違って、仕事や友人との距離の取り方など、自らが考える
              キッカケ作りとなる作品だと思います。

               

              フラワーアレンジメントの仲間二人も、一人は節約上手
              だけれど、年金詐欺を働いている疑惑がある人だったり、
              もう一人はもともと実家が豊かでバブリーな生活を送って
              いるものの熟年離婚の危機に瀕している人だったり、
              自分自身が置かれている環境は違っても、お金に対する
              考え方や使い方など、自分に合ったスタイルを模索する
              ヒントもありそう。…まあ、アメーバピグの課金は論外!

               

              ピグライフのガチャを回しているアホについては

              置いておいて、『老後の資金がありません』 に戻ると、

              成り行きで引き取ることになった姑が、私的には好きな

              タイプでした。元お嬢様で、思ったことをバシバシ言って

              主人公をイライラさせますが、結構、お姑さんの

              言うことの方が合理的だったり、正論で、空気を

              読まないけれど、イケイケなお婆ちゃんです。

               

              そのお姑さんの勢いに押されつつ、主人公はある事件に
              巻き込まれそうになりますが、その非日常感の中から
              主人公は自分の立ち位置や今後の気の持ち様をつかんで、
              それなりに “100年時代スタイル” への一歩を踏み出して
              行く展開で、きっとこのお姑さん、100歳まで生きるわと
              確信しました。生命力と年の割に柔軟性、あり過ぎ!

               

              この作品は、こうした状況になる前の、40代くらいの人が
              読んだ方がいいのではと思われる作品でした。

               

              なぜなら、やはり人生100年時代に立ち向かうには、
              健康の維持と “悩みを話せる人” は必須。この作品は、
              主人公が女性なので意外とあけすけに家の悩みを語る
              ことができますが、男性だとなかなかそうはいきません。
              あとがきにもありましたが、とにかく “見栄” は
              早い内に断捨離しておくことが必要だと思いました。

              張れるほどの見栄がない場合は、まず長く働ける仕事、

              探しましょう(自らに呼びかけ)。


              『ヤタガラス』 への序章 『下町ロケット ゴースト』

              0

                池井戸作品の最新刊 『下町ロケット ゴースト』(小学館刊)。
                帯にも書いてありましたが、宇宙、医療と来て、まさかの
                農業への事業参入。
                さらに、まさかの経理・殿村さんの実家が300年続いた農家
                という、これまでスポットを当てられなかった設定登場!

                 

                『STAR WARS』 の今でいうエピソード5を観た時のような、
                「あうう、これって序章だったのか!?」 という衝撃と、
                秋には発刊されるという続きへの期待感、ドラマ化される
                そうなのでベンチャー企業の社長・伊丹とエンジニア・島津
                は誰がキャスティングされるかを妄想するお楽しみ付き。

                 

                二人とも、元帝国重工から独立起業した社員という設定で、
                天才エンジニア・島津のキャスティングは大いに注目しています。

                 

                今回の佃製作所は、事業提携しようとしていたベンチャー
                企業のサポート的な立ち位置ですが、大きな企業の圧力に
                屈しない姿勢は健在。

                 

                佃製作所自体の大きな問題は 『下町ロケット ゴースト』
                では一進一退とも言えますが、訴訟問題での神谷弁護士の
                活躍などで、それなりの “スカッと” 感もあります。

                 

                一方で、農業関係の事業にもシフトせざるを得なくなった
                背景の一つである、帝国重工の今後の事業展開や派閥争い
                が、秋に発刊される 『下町ロケット ヤタガラス』 では
                フィーチャーされていくのでは?

                 

                タイトルが 「ヤタガラス」 ということは、宇宙関連事業は
                継続される方向に進むのか、帝国重工の次期社長候補に何か
                異変が起きるのか起こすのか、目が離せないところ。

                さらに、佃製作所の財務はどうなるのか、そちらの人事も

                気になります。

                 

                【関連記事】
                ◇素晴らしきかな製造業 『下町ロケット』
                http://nureinmal.jugem.jp/?eid=1952
                ◇『下町ロケット2 ガウディ計画』 出たー!
                http://nureinmal.jugem.jp/?eid=2616
                ◇登場人物一人ひとりが際立つ 『七つの会議』
                http://nureinmal.jugem.jp/?eid=3605


                登場人物一人ひとりが際立つ 『七つの会議』

                0

                  池井戸作品の文庫はあらかた読んだかなと思って
                  いたら、『七つの会議』(集英社文庫)が抜けていた
                  ことに気づき、読んでみました。
                  来年は映画にもなるようで、それぞれの立場の人の
                  見せ場があるので、主役級をバンバン出しやすい
                  作品だとおもいました。
                  http://nanakai-movie.jp/

                   

                  連載当時は、七つの会議だったようですが、文庫化で
                  加筆したそうで、八章の構成になっています。

                   

                  昼行燈のような万年係長、親のネジ製作所を継いだ
                  小さな会社の社長、不倫を清算して新しい道を行く
                  女性社員など、個々のそれまでの人生や価値観などの
                  説明があり、章ごとでそれなりに完結しつつも、
                  メインの舞台となる電機メーカーで起こっている
                  不祥事が明らかになっていく展開。

                   

                  事の起こりは、エリート営業課長がパワハラ問題。
                  そのパワハラ事件には裏があったことが次第に
                  明らかになっていき、後半はその問題の解決に誰が
                  どう動くのか、おそらくあの人だろうとわかって
                  いても、どうしたらその人の立場で親会社が動くよう
                  働きかけるのか、その手段も見どころとなります。

                   

                  他の池井戸作品を読んでいると、各章や設定部分など、
                  人気作品と通じるところがあって、オールスター的な
                  エンターテインメント作品でした。

                   

                  パワハラ事件を起こしてしまった課長の家庭環境が
                  後の方で語られる構成も良かったです。

                   

                  コメディ的要素で楽しめる 『民王』、クライムサスペンス
                  的な 『株価暴落』 と並んで、池井戸カラーがあまり
                  強いものは苦手という人でも楽しめると思います。

                   

                  ちなみに、私はもし池井戸作品を一冊選べと言われたら
                  『民王』 ですね(笑)。『陸王』 でなく。
                  総理大臣とそのバカ息子が入れ替わるという設定で、
                  総理が就活で日本の企業姿勢をあらためて考えたり、
                  バカ息子が国会で失言・暴言・読み間違いしながらも
                  政治家たちやマスコミを見る目がピュアで新鮮。
                  何度読んでも 「オトナになろうぜ、みんな」 の

                  シーンは好きです。

                   

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                  三者三様のエゴが入り乱れる 『ユートピア』

                  0

                    湊かなえさんの 『ユートピア』(集英社文庫)を
                    読んでみることにしました。湊かなえさんなので、絶対
                    登場人物が理想郷を得られるはずがないのはわかって
                    いるだけに、落としどころが楽しみでもありました。

                     

                    舞台は、何もないのどかな海辺の町で、都会人が観光で
                    訪れればユートピアのように見える世界。
                    そこに住む、それぞれ生きてきた環境も、世界観も異なる
                    女性3人が、自分の存在価値を見出そうともがきながら、
                    自分なりの理想世界を求める展開。
                    『贖罪』 に通じるところもありますが、ややマイルドです。

                     

                    町で起こった出来事は、その日の内に広まってしまうような
                    閉鎖的な環境でありながら、5年前に殺人事件があったと
                    いう謎が冒頭で提示されるも、ミステリー的要素は二の次。

                     

                    主人公となる3人の女性による、ボランティア基金の活動や、
                    メディアにも取り上げられるようになっての個々の自意識の

                    肥大や、町起こしイベントで起こる事件、ボランティア基金の
                    象徴的存在となっている少女にまつわる周囲の人たちの疑惑など、

                    小さな謎が絡みついてきて、いつ5年前の事件につながるのか、
                    彼女たちはどう自分に折り合いをつけていくのか、気に
                    なっている内に、意外とサクッと、それほど予想外でも
                    ない感じで、5年前の事件の謎が解明してしまうのでした。

                     

                    あくまでも5年前の事件はメインではなく、田舎暮らしと
                    周囲の人のデリカシーの無さに失望している主婦、
                    その地域では唯一の大手企業に勤める夫を持ち、同じ
                    企業でも現地採用の夫を持っている奥様連の中では
                    自分がワンランク上の人間だと思っている主婦、そして
                    自分の陶芸の才能についてはかなり過大評価している
                    割に生活力がない女性、その3人のエゴや同じ出来事を
                    それぞれの視点でどうとらえているかが面白さだと
                    思いました。

                     

                    海辺の田舎町でなくても、「自分の不運を土地のせいに
                    して、ここではないどこかを探しているだけ」 なのは、
                    現状がうまくいっていない人が一様に持つ感覚。
                    3人の女性はそんな “地に足を着けていない” 人ばかり
                    なので、毒舌な詩人・るり子さんに一番共感できました(笑)。

                     

                    誰がどんな形で、その夢から目を覚ますのか、現実を直視
                    する勇気が持てるのか、5年前の殺人事件や、イベントで
                    起こったある事件以上に、自己過信甚だしい女性たちの
                    結論がどうなるかを追うと楽しめる作品だと思います。

                     

                    とくに、地元民代表として描かれる菜々子の思考回路は
                    感情移入ができないのはもちろん、ミステリアスと言おうか、
                    理解不能と言おうか、3人の女性の中で最も恐ろしい
                    メンタルの持ち主で、この町にいつまでも隔離してほしい
                    と願うばかり。期待通り、スカッとせずに終わる作品です。

                     

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                    時々読みたくなる 『夜のピクニック』

                    0

                      昨日、『ミステリと言う勿れ』 について書きましたが、
                      何か以前読んだ本で、似たような似てないような作品が
                      あったな〜と本棚をチェックしたら、あった!

                       

                      『夜のピクニック』(新潮文庫)という作品で、著者は
                      未だ読了できずに座礁しまくっている 『蜜蜂と遠雷』 の
                      恩田陸さんの作品だったのでした。
                      『蜜蜂と遠雷』 が恩田作品の初チャレンジだと思って
                      いたら、読んでたのか自分…。

                       

                      『蜜蜂と遠雷』 はもしかすると、本の作りが私と相性
                      合わないのかも。上下二段という構成が。文庫本で
                      上下巻になった方が私には向いている気がしました。
                      本の作りと読了意欲の関連性については、深い考察が
                      必要となりそうなので、懸案事項として保留とします。

                       

                      『夜のピクニック』 は青春小説ですが、学園生活の
                      出来事から登場人物が成長するとか、友情が生まれると
                      いった展開でないのに、自分が経験していなくても
                      爽やかな高校生時代をイメージさせてくれる名作です。

                       

                      地方の受験校らしい高校の行事として毎年行われる
                      「歩行祭」 という昼夜ぶっとーしで80キロ歩き続ける
                      という学校行事の間の会話が中心のストーリー。

                       

                      昼間は、この行事を通してやりたいことや、卒業後の
                      方向や夢が語られ、日がくれると共にそれぞれの内面が
                      語られていく流れも秀逸。その境目となる海に沈む
                      夕日の様子も印象的です。

                       

                      この行事が高校生活最後となる、複数の高校3年生が
                      それぞれに主役とも言える立ち位置で、個々の価値観や
                      同じ道を一緒に歩いていても異なる見え方が、淡々と
                      語られるので、朗読作品にも適しているかもしれません。

                       

                      80キロ歩く間の昼と夜の景色や空気感、そして疲労や
                      休憩タイムで変化する話題やテンションなど、大きな
                      事件は起きないけれど、それぞれに抱えている思いや
                      秘密などが語られ、時に心霊写真事件や、妊娠事件など、
                      学校内の噂の裏がひょんなことから解明したり、転校した
                      友人が仕込んでくれていた魔法の意味に心温まったりと、
                      読後感は良いと思います。
                      私の場合は 「やっぱ、高校は男女共学だよな!」 と
                      毒を吐きつつも、穏やかな気分になれる一冊です。

                       

                      それぞれの親の “大人の事情” による生徒同士の確執
                      がどういった着地点となるのか、どういったキッカケ
                      で雪解けするのか、それともしないままに高校生活の
                      一大行事を終えてしまうのか、80キロのゴール以上に、
                      問題を抱えた主人公・貴子の賭けの結末とゴールが
                      足のマメくらいしか大きな問題とならない 「歩行祭」
                      の中で、読み手にとっては先へ進む原動力となります。

                       

                      すご〜く感動というタイプの作品ではありませんが、
                      松任谷由実さんの 「卒業写真」 のように、時々
                      再読したくなるのです。

                      『ミステリと言う勿れ』 とかぶって感じたのは、

                      おそらく、主人公が家族の問題を抱えていることと、

                      ふんわりした会話の中で、いつの間にか事件(謎)

                      が解明していくあたりだったのかもしれません。


                      一方で、『蜜蜂と遠雷』 はますますもって私に
                      「さっさと読めや!」 攻撃でプレッシャーを与えて
                      くるため、その逃避行動からか、現在、下重暁子さんの
                      『極上の孤独』(幻冬舎新書)なんか読んじゃってます。


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