実際の国王一家殺害事件も霞むほどの人間ドラマ 『王とサーカス』

2017.04.13 Thursday 06:31
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    かなり前に読んだのに、どのように感想をまとめて
    いいのか、頭の中が整理できないくらい衝撃の作品
    『王とサーカス』(米澤穂信著、東京創元社刊)。

     

    タイトルだけ見ても、一体どんな内容かすら予想も
    つかないミスマッチさがミステリアスです。

     

    実話も絡めた臨場感あふれる展開

     

    舞台はネパールで、2001年に実際に起こった事件が
    絡んでくる内容です。その事件とは、国王夫妻の他、
    10名近い王族が、皇太子によって殺害されたものの、
    真相が未だに解明されていないリアルミステリー。

     

    とはいえ、国王一家殺害事件が起きる前の日常は、
    雑誌の編集部から、ライトな海外旅行取材を受けた
    女性記者・太刀洗万智が見たネパールの様子と、
    彼女が宿泊しているトーキョーロッジの人々が
    中心に描かれます。

     

    ネパールの文化も感じられるエッセイ的魅力も

    バックパッカーのアメリカ人や、日本人僧侶、
    兄を亡くし子供ながら外国人相手に稼ぐ現地の少年、
    フレンドリーなトーキョーロッジの人々。

     

    朝食は食べないというネパールの生活習慣や、
    もともとは水底だったのに今は水不足に悩んで
    いるという現状、宗教に対する現地の人たちの畏敬
    などなど、うっかりミステリーだというのを忘れて
    ネパールに関するエッセイ気分で読み流して
    しまったのを、後々悔み、読了してから読み直し
    するという、お間抜けさは健在です!

     

    国王一家殺害事件が起こってからは、万智は
    その真相をつかむため、混乱する現地での状況の中、
    体を張ってジャーナリストとしての取材を決行。
    そのため、情報の錯綜や紛争に巻き込まれる
    臨場感に、読者も引き込まれます。

    これまた、その殺害事件に引き込まれ過ぎると、

    ミスリードされてしまうあざとさが憎い! でも、楽しい!

     

    タイトルの “サーカス” が持つ深い意味

     

    そんな彼女に、国王一家殺害事件の際に王宮に
    いたという軍人・ラジェスワルとのつなぎができ、
    そこに出向くことに。

     

    結果はネタバレになるので避けますが、彼の経験を
    通じて痛感した、海外のマスコミに関する考え方。

     

    それは、報道により海外の悲劇を知った傍観者たちが、
    その場は同情しても、本当に悲しんでいるのはなく、
    単に “悲劇を消費していること” であり、彼は
    「この国をサーカスにするつもりはないのだ」 と
    いうセリフには衝撃を受けると同時に、私自身、
    大した取材はしていないものの、取材のあり方を
    考えさせられました。

     

    そして、そのラジェスワルと、彼女が次に会うのは、
    彼が死体となって発見された時。
    その死体の背には 「INFORMER」 の文字が。

     

    彼女と会ったがために起きた殺人事件なのか、さらに
    その裏に隠された謎があるのか、謎が謎を呼び…。

     

    人間の持つ二面性を痛感させられる真相への道

     

    ラジェスワル殺害事件の一方で、それまで気さく

    だったアメリカ人が突如引きこもり、帰国に奔走しだし、

    一緒にお茶を楽しんでいた僧侶からも頼みごとをされ、

    現地警察に引っ張られた万智は、ラジェスワルが実は

    麻薬密売にも手を染めていたと聞かされ、私の方が

    情報処理能力オーバーヒート気味。

     

    そして、意外にも 「INFORMER」 という言葉が
    事件解明へとつながっていくと共に、これまで
    隠されていた犯罪や陰謀が白日のもとへ。

     

    前半、ネパール観光気分で読んでいたためにスルー
    していた日々の出来事が実はとてもフェアなヒントに
    なっていたことが次第にわかってくるのです。

     

    現地ガイドの少年・サガルとの別れとなるカフェ
    への道が、太刀洗万智の今後手掛ける仕事の
    道標となることを願いたい気持ちにさせられました。

     

    ネパールの魅力から始まり、国王一家殺害事件の
    ドキュメンタリー、身近な事件に巻き込まれ
    それを解決するミステリー、ジャーナリズムに
    ついての一考察、個々が潜在的に抱える二面性など、
    多くのテーマを一つの作品に内包する、久々の
    名著でした。読むたびに見え方が違ってきそうな
    奥深さの入り口に、今立ったという印象です。

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