条件が多い喫茶店 『コーヒーが冷めないうちに』

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    『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和著、サンマーク出版)
    を読みました。映画予告を観て、ちょっと気になったので。
    小さな喫茶店 「フニクリフニクラ」 のある席に座ると、
    過去に戻ることができるというお話し。

    最初は、女性作家の作品だと思っていたのですが、著者が

    男性だったのは意外でした。

     

    秋乃茉莉さんの 『Petshop of Horrors』 でも、D伯爵の
    怪しげなお茶を飲んで、確かあちらはその時に焚いている
    お香か何かが切れるまでに戻らないと現実に戻れない…
    みたいな話だったと思いますが、こちらの作品では、
    コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが
    冷めるまでにコーヒーを飲み干さないと、恐ろしいことに
    なりますよ〜というルールでした。
    http://coffee-movie.jp/

     

    過去に戻る場合のルールもいっぱい。
    「過去に戻っても、その喫茶店に訪れたことにない人には
    会うことができない」「過去に戻ってどんな努力をしても、
    現実は変わらない」、「あるタイミングの時しか過去に
    戻れない上、そのタイミングはランダムで1日1回だけ」
    と、かなり制限の多いタイムワープなのです。

     

    中でも、それぞれ過去に後悔があるからこそ、その時に
    戻りたいと考えているのに、現実を変えることができない
    というんじゃ、あまり意味がないんじゃ…というところが
    一番この作品の面白いところだと思います。

     

    「フニクリフニクラ」 で別れたカップルをはじめ、
    常連客は、水商売の女性、看護師の女性、旅行雑誌を
    ノートに書き写している男性、本を読んでいる女性など、
    それぞれの人生が、店の入り口の 「カランコロン」
    というカウベルの音と共に次第に明らかになっていく
    心地良さがあります。

     

    帯にあるように “4回泣ける” かは、かなり読み手
    次第だと思いますが、何となく先がわかっていても
    テンポよく読めるので、コーヒーよりも、興味が
    冷めない内に読み終えることができます。
    読後感が良いのは、設定が過去が変えられないからこそ。

     

    “泣いてデトックス系” ではなく、たとえ過去に戻れる

    喫茶店がなくても、後悔や過去の出来事から逃げずに

    直視して整理して、考え方を変えることで少なくとも

    未来は変えられるという明るさがある読後感でした。
     

    映画化に際しての希望は、あまりCGを使わないで
    ほしいこと、そして、できれば過去に戻れる席の
    エピソードゼロが原作よりもう少し多めに描かれて
    いるといいかと思われます。


    『老後の資金がありません』 で人生100年時代を考える

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      暑い夏、駅前の書店に寄って、ひと涼み。
      さらに、心の奥底から寒気を誘うタイトルの文庫が
      平積みになっていたので、手に取ってみました。

       

      『老後の資金がありません』(垣谷美雨著、中公文庫)。

      主人公は、50代の主婦なので、私的には感情移入しづらい
      設定ではありましたが、娘の結婚や舅の葬式での大出費、
      65歳まで働けると思っていた夫がリストラされ、さらに
      主人公もパートを切られ、高級老人ホームに入っている
      姑への負担費用を削減すべく、同居に踏み切り…と
      前半は暗澹とした、中高年ステージで想定される出費に
      ついて描かれています。

       

      お棺の値段はもとより、ドライアイス代1万円というのが
      異様にインパクト&リアリティがありました。

       

      さらに、結婚した娘の夫のDV疑惑や、フラワーアレンジ
      メント友達との生活感の違い、なかなか再就職先が
      見つからない夫など、もやもや感と “あるある感” が
      入り混じって、部分的に自分に置き換えて考えてみたり、
      「人生100年時代はこう生きるべし!」 的なハウツー物と
      違って、仕事や友人との距離の取り方など、自らが考える
      キッカケ作りとなる作品だと思います。

       

      フラワーアレンジメントの仲間二人も、一人は節約上手
      だけれど、年金詐欺を働いている疑惑がある人だったり、
      もう一人はもともと実家が豊かでバブリーな生活を送って
      いるものの熟年離婚の危機に瀕している人だったり、
      自分自身が置かれている環境は違っても、お金に対する
      考え方や使い方など、自分に合ったスタイルを模索する
      ヒントもありそう。…まあ、アメーバピグの課金は論外!

       

      ピグライフのガチャを回しているアホについては

      置いておいて、『老後の資金がありません』 に戻ると、

      成り行きで引き取ることになった姑が、私的には好きな

      タイプでした。元お嬢様で、思ったことをバシバシ言って

      主人公をイライラさせますが、結構、お姑さんの

      言うことの方が合理的だったり、正論で、空気を

      読まないけれど、イケイケなお婆ちゃんです。

       

      そのお姑さんの勢いに押されつつ、主人公はある事件に
      巻き込まれそうになりますが、その非日常感の中から
      主人公は自分の立ち位置や今後の気の持ち様をつかんで、
      それなりに “100年時代スタイル” への一歩を踏み出して
      行く展開で、きっとこのお姑さん、100歳まで生きるわと
      確信しました。生命力と年の割に柔軟性、あり過ぎ!

       

      この作品は、こうした状況になる前の、40代くらいの人が
      読んだ方がいいのではと思われる作品でした。

       

      なぜなら、やはり人生100年時代に立ち向かうには、
      健康の維持と “悩みを話せる人” は必須。この作品は、
      主人公が女性なので意外とあけすけに家の悩みを語る
      ことができますが、男性だとなかなかそうはいきません。
      あとがきにもありましたが、とにかく “見栄” は
      早い内に断捨離しておくことが必要だと思いました。

      張れるほどの見栄がない場合は、まず長く働ける仕事、

      探しましょう(自らに呼びかけ)。


      『ヤタガラス』 への序章 『下町ロケット ゴースト』

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        池井戸作品の最新刊 『下町ロケット ゴースト』(小学館刊)。
        帯にも書いてありましたが、宇宙、医療と来て、まさかの
        農業への事業参入。
        さらに、まさかの経理・殿村さんの実家が300年続いた農家
        という、これまでスポットを当てられなかった設定登場!

         

        『STAR WARS』 の今でいうエピソード5を観た時のような、
        「あうう、これって序章だったのか!?」 という衝撃と、
        秋には発刊されるという続きへの期待感、ドラマ化される
        そうなのでベンチャー企業の社長・伊丹とエンジニア・島津
        は誰がキャスティングされるかを妄想するお楽しみ付き。

         

        二人とも、元帝国重工から独立起業した社員という設定で、
        天才エンジニア・島津のキャスティングは大いに注目しています。

         

        今回の佃製作所は、事業提携しようとしていたベンチャー
        企業のサポート的な立ち位置ですが、大きな企業の圧力に
        屈しない姿勢は健在。

         

        佃製作所自体の大きな問題は 『下町ロケット ゴースト』
        では一進一退とも言えますが、訴訟問題での神谷弁護士の
        活躍などで、それなりの “スカッと” 感もあります。

         

        一方で、農業関係の事業にもシフトせざるを得なくなった
        背景の一つである、帝国重工の今後の事業展開や派閥争い
        が、秋に発刊される 『下町ロケット ヤタガラス』 では
        フィーチャーされていくのでは?

         

        タイトルが 「ヤタガラス」 ということは、宇宙関連事業は
        継続される方向に進むのか、帝国重工の次期社長候補に何か
        異変が起きるのか起こすのか、目が離せないところ。

        さらに、佃製作所の財務はどうなるのか、そちらの人事も

        気になります。

         

        【関連記事】
        ◇素晴らしきかな製造業 『下町ロケット』
        http://nureinmal.jugem.jp/?eid=1952
        ◇『下町ロケット2 ガウディ計画』 出たー!
        http://nureinmal.jugem.jp/?eid=2616
        ◇登場人物一人ひとりが際立つ 『七つの会議』
        http://nureinmal.jugem.jp/?eid=3605


        登場人物一人ひとりが際立つ 『七つの会議』

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          池井戸作品の文庫はあらかた読んだかなと思って
          いたら、『七つの会議』(集英社文庫)が抜けていた
          ことに気づき、読んでみました。
          来年は映画にもなるようで、それぞれの立場の人の
          見せ場があるので、主役級をバンバン出しやすい
          作品だとおもいました。
          http://nanakai-movie.jp/

           

          連載当時は、七つの会議だったようですが、文庫化で
          加筆したそうで、八章の構成になっています。

           

          昼行燈のような万年係長、親のネジ製作所を継いだ
          小さな会社の社長、不倫を清算して新しい道を行く
          女性社員など、個々のそれまでの人生や価値観などの
          説明があり、章ごとでそれなりに完結しつつも、
          メインの舞台となる電機メーカーで起こっている
          不祥事が明らかになっていく展開。

           

          事の起こりは、エリート営業課長がパワハラ問題。
          そのパワハラ事件には裏があったことが次第に
          明らかになっていき、後半はその問題の解決に誰が
          どう動くのか、おそらくあの人だろうとわかって
          いても、どうしたらその人の立場で親会社が動くよう
          働きかけるのか、その手段も見どころとなります。

           

          他の池井戸作品を読んでいると、各章や設定部分など、
          人気作品と通じるところがあって、オールスター的な
          エンターテインメント作品でした。

           

          パワハラ事件を起こしてしまった課長の家庭環境が
          後の方で語られる構成も良かったです。

           

          コメディ的要素で楽しめる 『民王』、クライムサスペンス
          的な 『株価暴落』 と並んで、池井戸カラーがあまり
          強いものは苦手という人でも楽しめると思います。

           

          ちなみに、私はもし池井戸作品を一冊選べと言われたら
          『民王』 ですね(笑)。『陸王』 でなく。
          総理大臣とそのバカ息子が入れ替わるという設定で、
          総理が就活で日本の企業姿勢をあらためて考えたり、
          バカ息子が国会で失言・暴言・読み間違いしながらも
          政治家たちやマスコミを見る目がピュアで新鮮。
          何度読んでも 「オトナになろうぜ、みんな」 の

          シーンは好きです。

           

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          三者三様のエゴが入り乱れる 『ユートピア』

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            湊かなえさんの 『ユートピア』(集英社文庫)を
            読んでみることにしました。湊かなえさんなので、絶対
            登場人物が理想郷を得られるはずがないのはわかって
            いるだけに、落としどころが楽しみでもありました。

             

            舞台は、何もないのどかな海辺の町で、都会人が観光で
            訪れればユートピアのように見える世界。
            そこに住む、それぞれ生きてきた環境も、世界観も異なる
            女性3人が、自分の存在価値を見出そうともがきながら、
            自分なりの理想世界を求める展開。
            『贖罪』 に通じるところもありますが、ややマイルドです。

             

            町で起こった出来事は、その日の内に広まってしまうような
            閉鎖的な環境でありながら、5年前に殺人事件があったと
            いう謎が冒頭で提示されるも、ミステリー的要素は二の次。

             

            主人公となる3人の女性による、ボランティア基金の活動や、
            メディアにも取り上げられるようになっての個々の自意識の

            肥大や、町起こしイベントで起こる事件、ボランティア基金の
            象徴的存在となっている少女にまつわる周囲の人たちの疑惑など、

            小さな謎が絡みついてきて、いつ5年前の事件につながるのか、
            彼女たちはどう自分に折り合いをつけていくのか、気に
            なっている内に、意外とサクッと、それほど予想外でも
            ない感じで、5年前の事件の謎が解明してしまうのでした。

             

            あくまでも5年前の事件はメインではなく、田舎暮らしと
            周囲の人のデリカシーの無さに失望している主婦、
            その地域では唯一の大手企業に勤める夫を持ち、同じ
            企業でも現地採用の夫を持っている奥様連の中では
            自分がワンランク上の人間だと思っている主婦、そして
            自分の陶芸の才能についてはかなり過大評価している
            割に生活力がない女性、その3人のエゴや同じ出来事を
            それぞれの視点でどうとらえているかが面白さだと
            思いました。

             

            海辺の田舎町でなくても、「自分の不運を土地のせいに
            して、ここではないどこかを探しているだけ」 なのは、
            現状がうまくいっていない人が一様に持つ感覚。
            3人の女性はそんな “地に足を着けていない” 人ばかり
            なので、毒舌な詩人・るり子さんに一番共感できました(笑)。

             

            誰がどんな形で、その夢から目を覚ますのか、現実を直視
            する勇気が持てるのか、5年前の殺人事件や、イベントで
            起こったある事件以上に、自己過信甚だしい女性たちの
            結論がどうなるかを追うと楽しめる作品だと思います。

             

            とくに、地元民代表として描かれる菜々子の思考回路は
            感情移入ができないのはもちろん、ミステリアスと言おうか、
            理解不能と言おうか、3人の女性の中で最も恐ろしい
            メンタルの持ち主で、この町にいつまでも隔離してほしい
            と願うばかり。期待通り、スカッとせずに終わる作品です。

             

            【関連記事】
            ◇裏の裏は表じゃない袋小路 『リバース』
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            ◇映画に向けて 『告白』 一気読み!
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            時々読みたくなる 『夜のピクニック』

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              昨日、『ミステリと言う勿れ』 について書きましたが、
              何か以前読んだ本で、似たような似てないような作品が
              あったな〜と本棚をチェックしたら、あった!

               

              『夜のピクニック』(新潮文庫)という作品で、著者は
              未だ読了できずに座礁しまくっている 『蜜蜂と遠雷』 の
              恩田陸さんの作品だったのでした。
              『蜜蜂と遠雷』 が恩田作品の初チャレンジだと思って
              いたら、読んでたのか自分…。

               

              『蜜蜂と遠雷』 はもしかすると、本の作りが私と相性
              合わないのかも。上下二段という構成が。文庫本で
              上下巻になった方が私には向いている気がしました。
              本の作りと読了意欲の関連性については、深い考察が
              必要となりそうなので、懸案事項として保留とします。

               

              『夜のピクニック』 は青春小説ですが、学園生活の
              出来事から登場人物が成長するとか、友情が生まれると
              いった展開でないのに、自分が経験していなくても
              爽やかな高校生時代をイメージさせてくれる名作です。

               

              地方の受験校らしい高校の行事として毎年行われる
              「歩行祭」 という昼夜ぶっとーしで80キロ歩き続ける
              という学校行事の間の会話が中心のストーリー。

               

              昼間は、この行事を通してやりたいことや、卒業後の
              方向や夢が語られ、日がくれると共にそれぞれの内面が
              語られていく流れも秀逸。その境目となる海に沈む
              夕日の様子も印象的です。

               

              この行事が高校生活最後となる、複数の高校3年生が
              それぞれに主役とも言える立ち位置で、個々の価値観や
              同じ道を一緒に歩いていても異なる見え方が、淡々と
              語られるので、朗読作品にも適しているかもしれません。

               

              80キロ歩く間の昼と夜の景色や空気感、そして疲労や
              休憩タイムで変化する話題やテンションなど、大きな
              事件は起きないけれど、それぞれに抱えている思いや
              秘密などが語られ、時に心霊写真事件や、妊娠事件など、
              学校内の噂の裏がひょんなことから解明したり、転校した
              友人が仕込んでくれていた魔法の意味に心温まったりと、
              読後感は良いと思います。
              私の場合は 「やっぱ、高校は男女共学だよな!」 と
              毒を吐きつつも、穏やかな気分になれる一冊です。

               

              それぞれの親の “大人の事情” による生徒同士の確執
              がどういった着地点となるのか、どういったキッカケ
              で雪解けするのか、それともしないままに高校生活の
              一大行事を終えてしまうのか、80キロのゴール以上に、
              問題を抱えた主人公・貴子の賭けの結末とゴールが
              足のマメくらいしか大きな問題とならない 「歩行祭」
              の中で、読み手にとっては先へ進む原動力となります。

               

              すご〜く感動というタイプの作品ではありませんが、
              松任谷由実さんの 「卒業写真」 のように、時々
              再読したくなるのです。

              『ミステリと言う勿れ』 とかぶって感じたのは、

              おそらく、主人公が家族の問題を抱えていることと、

              ふんわりした会話の中で、いつの間にか事件(謎)

              が解明していくあたりだったのかもしれません。


              一方で、『蜜蜂と遠雷』 はますますもって私に
              「さっさと読めや!」 攻撃でプレッシャーを与えて
              くるため、その逃避行動からか、現在、下重暁子さんの
              『極上の孤独』(幻冬舎新書)なんか読んじゃってます。


              読後はカバーの絵の色が違って見えてくる 『星の子』

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                書店に 「本屋大賞2018」 入賞作がずらっと並んでいて、
                文庫で読みたい(保存するかもしれない)作品はスルー
                して、その他の中からお得意のジャケ買いならぬ装丁買い。
                「装丁買い」 はあまりに使われない言葉なせいか、
                「想定外」 と想定外な文字が出てしまいました。

                 

                そこで選んだのが 『星の子』(今村夏子著、朝日新聞出版)。
                自分自身がキッカケとなって、両親が怪しげな宗教に
                どっぷりとのめりこんで、家庭崩壊していく様と、
                そんな両親の異様さは客観的に見る視点を持ちつつも、
                子供という立場からその環境を受け入れざるを得ない
                女の子の姿が哀しい展開です。

                 

                子供の幸せを願っていたはずの宗教が、いつの間にか
                長女を家出させ、給料がいい職場であったはずの損保に
                勤めていた父は職を失い、母は身なりにかまわなくなり、
                全くの本末転倒両親という点は、とくに目新しいテーマ
                ではありませんが、その状況下での主人公の心の動きが
                メインと言えるのではないでしょうか。

                 

                彼らの長女のようにグレて家出してしまうでもなく、
                適度に宗教団体の活動に参加しつつ、時には学校の先生に
                憧れを持ったり、親族の法事にそこで出される食べ物が
                楽しみで一人参加してみたり、宗教に抗う部分は欠落
                してしまっているけれど、まだ宗教の洗脳から脱出が
                可能そうな “フツーの子” としての側面が描かれると
                読み手側も心が不穏にざわつきます。

                 

                両親による “宗教ハラスメント” から距離を置いてくれよう
                と申し出てくれている叔父さんの元へ、自主的に逃げようと
                しない主人公。そして、宗教に否定的な行動をとる叔父の

                元へはやらないよう、おそらくある決意を持って、

                宗教団体の家族旅行に参加したと思われる両親。

                 

                家族3人が宗教施設 「星々の郷」 で見上げてのやりとりと、
                旅行前に学校で配られたプリントの内容を考えてみると、
                カバーに描かれている夜空の色が変わって見え、タイトルの
                下に流れている星が不吉な結末を暗示させているような
                気がしました。

                 

                宗教にハマりまくっていく話の方が、意外と宗教が持つ
                狂気は描き切れず、読み手にとっても別世界過ぎて気楽
                かもしれません。…と不安だけ煽って、突如終わり。
                抗生物質がそろそろ効いてきたようです。


                『鍵のない夢を見る』 のバグった夢たち

                0

                  いろいろな書店で、オススメ本として 『かがみの孤城』
                  (ポプラ社刊)が店頭に置かれている辻村深月さんの
                  本と言えば、映画になった 『ツナグ』(新潮文庫刊)
                  くらいしか読んでいなかったので、直木賞受賞作の
                  『鍵のない夢を見る』 を読んでみました。

                   

                  女性が主人公となっている5つの短編集で、それぞれの
                  タイトルに “泥棒・放火・逃亡者・殺人・誘拐” と
                  やや物騒な単語が散りばめられており、帯を見ると
                  “5人の女たちの夢と転落” とも書かれていたので、
                  少なくとも明るい話ではないなと思って読みましたが、
                  うん、たしかに暗い!

                   

                  主人公の一人称スタイルなこともあって、主人公目線で
                  その成り行きを共に追いかけるものの、感情移入できない
                  距離感が、不思議な感覚です。

                   

                  とくに、“放火・逃亡者・殺人” の主人公たちは
                  パラノイア的な要素があって、事件の全容がわかると
                  まるで仮想の相手に翻弄されたかのような結末に。

                   

                  “鍵のない夢” というよりも、夢へのアプローチに
                  バグった女性と、主にだめんずな男たちの話です。

                   

                  中でも 「芹葉大学の夢と殺人」 はミステリー調で、
                  相手の男性も本作の “キング・オブ・だめんず” で
                  一番納得のいくラストでした。

                   

                  「仁志野町の泥棒」 は、主人公よりもその対象と

                  なっている女性の方が理解不能。さらに、それでも

                  付き合い続ける人の気持ちもわからん!

                  その割に、一編の作品としては好きな気がします。

                   

                  “誘拐” 編については、同じように自分を追い詰めた
                  結果による事件ではありますが、私自身、占いを

                  やっていて、かなり近い精神状態に陥る人から

                  この状態に近い話も聞いているし、ここまで大事に

                  ならなくてもそれに近い行動を取ってしまいそうな

                  崖っぷちにいる人の相談も受けたことがあるので、
                  女性たちの “鍵のない夢” とは少し違うかも。

                   

                  巻末に著者と林真理子さんの対談が収録されており、
                  ここまでがワンセットの作品だと思います。

                   

                  読書は、自分が持っていない価値観や物の見方を
                  与えてくれますが、ここに登場する女性たちの考え方
                  はできれば着信拒否したいような、ちょっと腰が
                  引けてしまうような、純度は低いけれどじわじわと
                  効いてくるような毒があります。

                   

                  はてさて、『かがみの孤城』 は単行本で読むべきか、

                  文庫化を待つか、微妙なところです。

                   

                  【関連記事】
                  ◇生者と死者の仲介人 『ツナグ』
                  http://nureinmal.jugem.jp/?eid=1467
                  ◇切なくも爽やかな仕上がりの映画 『ツナグ』
                  http://nureinmal.jugem.jp/?eid=1502


                  映画鑑賞前に原作を読んでおいた方が楽しめる 『羊と鋼の森』

                  0

                    「2016年本屋大賞」 となった 『羊と鋼の森』
                    (宮下奈都著、文春文庫)。
                    装丁の絵も、内容をよく理解した上で、その世界観を
                    表現している、すばらしい作品だと思います。

                     

                    ストーリーは、裏書を丸写しすると、「高校生の時、
                    偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に
                    見せられた外村は、念願の調律師として働き始める。
                    ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性
                    豊かな先輩たちや、双子の姉妹に囲まれながら、
                    調律の森へと深く分け入っていく――。一人の青年が
                    成長する姿を温かく静謐な筆致で描かれた感動作」。

                     

                    これだけだと、若者が仕事を通じて、同僚や顧客との
                    ふれあいを通して成長するという、ありがちな作品に
                    思われますが、まず、文学では表現が難しい “音” が
                    感じられるような、言葉選びによって書かれた静謐の
                    中に、刻まれていく美しい言葉の流れ。

                     

                    作品の文字、一つひとつが音楽を奏でるような、そんな
                    作品なのです。将来的にも、BOOKOFF行きはないと
                    言い切れる作品!

                     

                    また、主人公の外村は北海道育ちで、信念はあるけれど、
                    どこかつかめない空気のような、無垢な魂を持った
                    青年で、調律師の仕事を通して “成長” というより、
                    周囲の人が持つ価値観や仕事への取り組み方から、
                    さまざまなことを “吸収”し、小さな木の芽が森へと
                    広がっていくような、不思議な感覚にとらわれます。

                     

                    相手が求める音という抽象的な要望となる音を提供
                    したいと考える先輩・柳、音大のピアノ科に行って
                    ピアニストを目指したものの挫折して、弾く人の
                    レベルに合わせ、時には手抜きにも感じられる調律を
                    する先輩・秋野――調律師は技術や実績だけでなく、
                    調律をする上でのスタンスやポリシーで作り上げる
                    音が変わる世界に、正解はなく、外村自身が技術だけ
                    でなく、自分が求める調律の域を探っていく過程も
                    この作品の見どころだと思います。

                     

                    それだけに、彼の中に育まれている北海道の自然の音、
                    おそらくは心の変化を象徴するような曲など、映画
                    ならではの表現には期待が高まります。
                    http://hitsuji-hagane-movie.com/

                     

                    彼の人生観、行き着きたい場所に “気づき” を
                    もたらす双子の姉妹との出会いと、その後の事件に
                    よる心の変化については、映像では表現が難しいと
                    思われることと、外村の内面を知っている状態で
                    映画を観た方が感動が大きい気がします。

                     

                    “美しく、善い” ピアノの中に住む羊の世界が、
                    同作を通じて、静かに語られることでしょう。


                    『火星に住むつもりかい?』 は伊坂版・昆虫すごいぜ!

                    0

                      伊坂幸太郎さんの作品は、登場する人物も魅力的だし、
                      異色な設定もあったり、どんでん返しもあったり、
                      さらには、登場人物が交わす会話の中に、心に残る
                      ひと言があったりと、文庫化を心待ちにすることも
                      少なくないものばかり。

                       

                      いろいろ読んできましたが、『オーデュボンの祈り』
                      『アヒルと鴨のコインロッカー』 といった有名作品
                      が、やはりマイフェイバリットの上位です。

                       

                      最初に読んだのが 『オーデュボンの祈り』 なことも
                      あって、インパクト&読後感、共にNo.1ですね。

                      オススメ作品とも言えます。

                       

                      『ゴールデンスランバー』 もストーリーテリング的

                      には面白いのですが、厳選された言葉というか、

                      カッコいいセリフとというか、登場人物の魅力を

                      感じさせてくれる言葉の数的に、前述の2作の方が好き!

                      映画は観ていないけれど、映画化には向いている作品

                      だとは思います。また、“初めての伊坂作品” として

                      何を読むべきかと問われたら、『砂漠』 も入りやすい

                      作品なのではないかと思われます。

                       

                      で、『火星に住むつもりかい?』(伊坂幸太郎著、
                      光文社刊)は、作家&タイトル買いしました。

                       

                      内容の予想がつきそうで全くつかないタイトルの
                      つけかたも、妄想が掻き立てられ、また魅力。

                       

                      舞台は、危険人物を排除するという名のもとに作られた
                      「平和警察」 に守られているはずの世界。
                      とはいえ、危険人物と認定される人物は本当に危険なのか、
                      他社の悪意による密告によるものかわからない、中世魔女
                      狩りや、スターリンの粛清時代を思わせる社会。

                       

                      冒頭は、危険人物を一般大衆が作っていく禍々しさや、
                      突然自分自身が危険人物認定されてしまう恐ろしさ、
                      そして、拷問や公開処刑など、なかなかハード。

                       

                      そんな監視・密告社会の中、危険人物とされた人が
                      謎の黒ずくめの “正義の味方” に救われ、平和警察と
                      しては顔に泥を塗られる事件が始まります。

                      例えれば、『名探偵コナン』 の犯沢さん・つなぎ

                      ファッションといった感じのヒーローです。

                       

                      そんな “正義の味方” を見つけ出すため、派遣された

                      捜査官・真壁は、次第に “正義の味方” の手がかりを

                      つかんでいき…と、読みつつもどちらかというと

                      “正義の味方” がつかまらないでほしい思いと、

                      虫オタ・真壁の飄々とした魅力にも揺れつつ、事件は

                      意外な展開に。

                       

                      所々で挿入される床屋の情景が、作品の流れに応じて
                      そこから得たいと思う情報が自分の中で変化していくのを

                      認識しつつも、どこをチェックすればいいのかわからない

                      感じがまたイイ!

                       

                      そして、ディストピアとなっている 「平和警察」 管轄の
                      社会を根本から壊してくれる人が登場するのか、こちらも
                      どういう落としどころがあるのか模索していたら、違う
                      光が差し込んできて、探し物が見つけられるような作品。

                       

                      章の区切りごとに挿入される、死神のカマやアリ、ハサミの

                      シルエットマークも、再読するとさらに深い意味を持って
                      いたのに、気づかされたのでした。

                       

                      なぜ、秘密警察の捜査カテゴリがアリなのか、地道な
                      捜査という意味なのだろうかと勝手に決めて、途中から
                      慣れてしまい、考えることを放棄していた自分にも
                      気づかされました。

                      とにかく、クセになりますね、伊坂ワールド。

                       

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