読後はカバーの絵の色が違って見えてくる 『星の子』

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    書店に 「本屋大賞2018」 入賞作がずらっと並んでいて、
    文庫で読みたい(保存するかもしれない)作品はスルー
    して、その他の中からお得意のジャケ買いならぬ装丁買い。
    「装丁買い」 はあまりに使われない言葉なせいか、
    「想定外」 と想定外な文字が出てしまいました。

     

    そこで選んだのが 『星の子』(今村夏子著、朝日新聞出版)。
    自分自身がキッカケとなって、両親が怪しげな宗教に
    どっぷりとのめりこんで、家庭崩壊していく様と、
    そんな両親の異様さは客観的に見る視点を持ちつつも、
    子供という立場からその環境を受け入れざるを得ない
    女の子の姿が哀しい展開です。

     

    子供の幸せを願っていたはずの宗教が、いつの間にか
    長女を家出させ、給料がいい職場であったはずの損保に
    勤めていた父は職を失い、母は身なりにかまわなくなり、
    全くの本末転倒両親という点は、とくに目新しいテーマ
    ではありませんが、その状況下での主人公の心の動きが
    メインと言えるのではないでしょうか。

     

    彼らの長女のようにグレて家出してしまうでもなく、
    適度に宗教団体の活動に参加しつつ、時には学校の先生に
    憧れを持ったり、親族の法事にそこで出される食べ物が
    楽しみで一人参加してみたり、宗教に抗う部分は欠落
    してしまっているけれど、まだ宗教の洗脳から脱出が
    可能そうな “フツーの子” としての側面が描かれると
    読み手側も心が不穏にざわつきます。

     

    両親による “宗教ハラスメント” から距離を置いてくれよう
    と申し出てくれている叔父さんの元へ、自主的に逃げようと
    しない主人公。そして、宗教に否定的な行動をとる叔父の

    元へはやらないよう、おそらくある決意を持って、

    宗教団体の家族旅行に参加したと思われる両親。

     

    家族3人が宗教施設 「星々の郷」 で見上げてのやりとりと、
    旅行前に学校で配られたプリントの内容を考えてみると、
    カバーに描かれている夜空の色が変わって見え、タイトルの
    下に流れている星が不吉な結末を暗示させているような
    気がしました。

     

    宗教にハマりまくっていく話の方が、意外と宗教が持つ
    狂気は描き切れず、読み手にとっても別世界過ぎて気楽
    かもしれません。…と不安だけ煽って、突如終わり。
    抗生物質がそろそろ効いてきたようです。


    『鍵のない夢を見る』 のバグった夢たち

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      いろいろな書店で、オススメ本として 『かがみの孤城』
      (ポプラ社刊)が店頭に置かれている辻村深月さんの
      本と言えば、映画になった 『ツナグ』(新潮文庫刊)
      くらいしか読んでいなかったので、直木賞受賞作の
      『鍵のない夢を見る』 を読んでみました。

       

      女性が主人公となっている5つの短編集で、それぞれの
      タイトルに “泥棒・放火・逃亡者・殺人・誘拐” と
      やや物騒な単語が散りばめられており、帯を見ると
      “5人の女たちの夢と転落” とも書かれていたので、
      少なくとも明るい話ではないなと思って読みましたが、
      うん、たしかに暗い!

       

      主人公の一人称スタイルなこともあって、主人公目線で
      その成り行きを共に追いかけるものの、感情移入できない
      距離感が、不思議な感覚です。

       

      とくに、“放火・逃亡者・殺人” の主人公たちは
      パラノイア的な要素があって、事件の全容がわかると
      まるで仮想の相手に翻弄されたかのような結末に。

       

      “鍵のない夢” というよりも、夢へのアプローチに
      バグった女性と、主にだめんずな男たちの話です。

       

      中でも 「芹葉大学の夢と殺人」 はミステリー調で、
      相手の男性も本作の “キング・オブ・だめんず” で
      一番納得のいくラストでした。

       

      「仁志野町の泥棒」 は、主人公よりもその対象と

      なっている女性の方が理解不能。さらに、それでも

      付き合い続ける人の気持ちもわからん!

      その割に、一編の作品としては好きな気がします。

       

      “誘拐” 編については、同じように自分を追い詰めた
      結果による事件ではありますが、私自身、占いを

      やっていて、かなり近い精神状態に陥る人から

      この状態に近い話も聞いているし、ここまで大事に

      ならなくてもそれに近い行動を取ってしまいそうな

      崖っぷちにいる人の相談も受けたことがあるので、
      女性たちの “鍵のない夢” とは少し違うかも。

       

      巻末に著者と林真理子さんの対談が収録されており、
      ここまでがワンセットの作品だと思います。

       

      読書は、自分が持っていない価値観や物の見方を
      与えてくれますが、ここに登場する女性たちの考え方
      はできれば着信拒否したいような、ちょっと腰が
      引けてしまうような、純度は低いけれどじわじわと
      効いてくるような毒があります。

       

      はてさて、『かがみの孤城』 は単行本で読むべきか、

      文庫化を待つか、微妙なところです。

       

      【関連記事】
      ◇生者と死者の仲介人 『ツナグ』
      http://nureinmal.jugem.jp/?eid=1467
      ◇切なくも爽やかな仕上がりの映画 『ツナグ』
      http://nureinmal.jugem.jp/?eid=1502


      映画鑑賞前に原作を読んでおいた方が楽しめる 『羊と鋼の森』

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        「2016年本屋大賞」 となった 『羊と鋼の森』
        (宮下奈都著、文春文庫)。
        装丁の絵も、内容をよく理解した上で、その世界観を
        表現している、すばらしい作品だと思います。

         

        ストーリーは、裏書を丸写しすると、「高校生の時、
        偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に
        見せられた外村は、念願の調律師として働き始める。
        ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性
        豊かな先輩たちや、双子の姉妹に囲まれながら、
        調律の森へと深く分け入っていく――。一人の青年が
        成長する姿を温かく静謐な筆致で描かれた感動作」。

         

        これだけだと、若者が仕事を通じて、同僚や顧客との
        ふれあいを通して成長するという、ありがちな作品に
        思われますが、まず、文学では表現が難しい “音” が
        感じられるような、言葉選びによって書かれた静謐の
        中に、刻まれていく美しい言葉の流れ。

         

        作品の文字、一つひとつが音楽を奏でるような、そんな
        作品なのです。将来的にも、BOOKOFF行きはないと
        言い切れる作品!

         

        また、主人公の外村は北海道育ちで、信念はあるけれど、
        どこかつかめない空気のような、無垢な魂を持った
        青年で、調律師の仕事を通して “成長” というより、
        周囲の人が持つ価値観や仕事への取り組み方から、
        さまざまなことを “吸収”し、小さな木の芽が森へと
        広がっていくような、不思議な感覚にとらわれます。

         

        相手が求める音という抽象的な要望となる音を提供
        したいと考える先輩・柳、音大のピアノ科に行って
        ピアニストを目指したものの挫折して、弾く人の
        レベルに合わせ、時には手抜きにも感じられる調律を
        する先輩・秋野――調律師は技術や実績だけでなく、
        調律をする上でのスタンスやポリシーで作り上げる
        音が変わる世界に、正解はなく、外村自身が技術だけ
        でなく、自分が求める調律の域を探っていく過程も
        この作品の見どころだと思います。

         

        それだけに、彼の中に育まれている北海道の自然の音、
        おそらくは心の変化を象徴するような曲など、映画
        ならではの表現には期待が高まります。
        http://hitsuji-hagane-movie.com/

         

        彼の人生観、行き着きたい場所に “気づき” を
        もたらす双子の姉妹との出会いと、その後の事件に
        よる心の変化については、映像では表現が難しいと
        思われることと、外村の内面を知っている状態で
        映画を観た方が感動が大きい気がします。

         

        “美しく、善い” ピアノの中に住む羊の世界が、
        同作を通じて、静かに語られることでしょう。


        『火星に住むつもりかい?』 は伊坂版・昆虫すごいぜ!

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          伊坂幸太郎さんの作品は、登場する人物も魅力的だし、
          異色な設定もあったり、どんでん返しもあったり、
          さらには、登場人物が交わす会話の中に、心に残る
          ひと言があったりと、文庫化を心待ちにすることも
          少なくないものばかり。

           

          いろいろ読んできましたが、『オーデュボンの祈り』
          『アヒルと鴨のコインロッカー』 といった有名作品
          が、やはりマイフェイバリットの上位です。

           

          最初に読んだのが 『オーデュボンの祈り』 なことも
          あって、インパクト&読後感、共にNo.1ですね。

          オススメ作品とも言えます。

           

          『ゴールデンスランバー』 もストーリーテリング的

          には面白いのですが、厳選された言葉というか、

          カッコいいセリフとというか、登場人物の魅力を

          感じさせてくれる言葉の数的に、前述の2作の方が好き!

          映画は観ていないけれど、映画化には向いている作品

          だとは思います。また、“初めての伊坂作品” として

          何を読むべきかと問われたら、『砂漠』 も入りやすい

          作品なのではないかと思われます。

           

          で、『火星に住むつもりかい?』(伊坂幸太郎著、
          光文社刊)は、作家&タイトル買いしました。

           

          内容の予想がつきそうで全くつかないタイトルの
          つけかたも、妄想が掻き立てられ、また魅力。

           

          舞台は、危険人物を排除するという名のもとに作られた
          「平和警察」 に守られているはずの世界。
          とはいえ、危険人物と認定される人物は本当に危険なのか、
          他社の悪意による密告によるものかわからない、中世魔女
          狩りや、スターリンの粛清時代を思わせる社会。

           

          冒頭は、危険人物を一般大衆が作っていく禍々しさや、
          突然自分自身が危険人物認定されてしまう恐ろしさ、
          そして、拷問や公開処刑など、なかなかハード。

           

          そんな監視・密告社会の中、危険人物とされた人が
          謎の黒ずくめの “正義の味方” に救われ、平和警察と
          しては顔に泥を塗られる事件が始まります。

          例えれば、『名探偵コナン』 の犯沢さん・つなぎ

          ファッションといった感じのヒーローです。

           

          そんな “正義の味方” を見つけ出すため、派遣された

          捜査官・真壁は、次第に “正義の味方” の手がかりを

          つかんでいき…と、読みつつもどちらかというと

          “正義の味方” がつかまらないでほしい思いと、

          虫オタ・真壁の飄々とした魅力にも揺れつつ、事件は

          意外な展開に。

           

          所々で挿入される床屋の情景が、作品の流れに応じて
          そこから得たいと思う情報が自分の中で変化していくのを

          認識しつつも、どこをチェックすればいいのかわからない

          感じがまたイイ!

           

          そして、ディストピアとなっている 「平和警察」 管轄の
          社会を根本から壊してくれる人が登場するのか、こちらも
          どういう落としどころがあるのか模索していたら、違う
          光が差し込んできて、探し物が見つけられるような作品。

           

          章の区切りごとに挿入される、死神のカマやアリ、ハサミの

          シルエットマークも、再読するとさらに深い意味を持って
          いたのに、気づかされたのでした。

           

          なぜ、秘密警察の捜査カテゴリがアリなのか、地道な
          捜査という意味なのだろうかと勝手に決めて、途中から
          慣れてしまい、考えることを放棄していた自分にも
          気づかされました。

          とにかく、クセになりますね、伊坂ワールド。

           

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          興味の域で留めたい 『一般人は入れない立入禁止地帯』

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            『STAR WARS』 に出てくる、ファースト・オーダーの
            装甲トランスポートAT-ATを、近頃までイギリスの
            「マンセル要塞」 がモデルだと思っていたのですが、
            ゾウがベースと知り、愕然とした私です。

             

            そんな 「マンセル要塞」 が表紙の 『一般人は入れない
            立入禁止地帯〜危険度MAX版〜』(彩図社刊)という、
            コンビニで売ってる冊子を見つけたので、気弱な小市民の
            私は、怖いもの見たさで購入しました。

             

            軍事機密系や地形的に困難なエリア、歴史的・文化的に
            立ち入れないエリア、生命の危険を保証できない治安の
            エリアなど、ほとんどがまさに危険度MAXなのですが、
            「コカ・コーラのレシピ保存庫」「バッキンガム宮殿の
            女王の寝室」 など、危険性よりその背景が興味深い
            場所や、絶景で有名なアメリカの 「ザ・ウェーブ」 や、
            頻繁に赤い雷と夥しい稲妻が起きる南米マラカイボ湖も
            紹介されていました。

             

            マラカイボ湖の謎の雷は、『猫mix幻奇譚とらじ』
            (田村由美著、小学館刊)11巻に登場するパ・ンダダの
            篝火のベースになっているのかなと思いつつ読んでいて、
            『一般人は入れない立入禁止地帯』 にその理由とか
            説明されているかと思ったけれど、未だ謎のようです。

             

            謎解明に行って落雷で死にたくないので、専門家の
            方々の調査研究に期待しています。

             

            『とらじ』 の方では、雷(いかづち)ねずみと、
            仲良しの鉄のねずみが作り出したマグネッチュによる
            現象だという設定でほのぼのしましたが、マラカイボ湖
            の方は、落雷による死者も出ているそうです。

             

            ラストに紹介されている月面の立入禁止区域に関しては、
            アメリカ国旗がなびいているのがおかしいとか、影が
            いろいろな方向を向いているとか、コーラの瓶が写り
            込んでいたとか、月面の石に番号が振ってあるものが
            あったとか、アメリカの 「月面着陸疑惑」 について
            写真付きで説明してある本も読んだことがあります。


            この際、スタンリー・キューブリック監督の霊を
            恐山のイタコの口寄せでお呼びして、真相を聞くと

            いう斬新な解決策にチャレンジしてみるのもいいのでは?
            まあ、アメリカには非現実的だと、一笑に伏される

            でしょうけどね(笑)。

             

            で、冒頭の 「マンセル要塞」 ですが、ドイツ軍の
            戦闘機をボカスカ迎撃しやがって、あまり好きでは
            ないのですが、海に立つ姿は 『ONE PIECE』 の
            ゾウみたいでもあり、負の遺産とはわかっているし、
            それがあることによる問題も知ってはいるのですが、
            撤去するには寂しい気がしてしまうのでした。


            モノクロで重厚な写真集 「マンホールのふた(日本篇)」

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              Amazonでは手が出せなさそうな金額設定だった写真集を
              ヤフオクで原価(2900円)以下で購入でき、その本が
              ついに我が家に届き、日中、激暑で疲弊したテンションが
              一気にアップしました。

               

              初版が1984年3月30日。林丈二さんが撮影・執筆された
              「マンホールのふた(日本篇)」(サイエンティスト社)で、
              私が手に入れたのは、1995年末の三刷です。

               

              約10年で2回重版しているというのも、写真集としては
              めずらしく、そのニッチな内容からかと思われます。

               

              モノクロ写真集なので、鉄の重厚感が伝わってくるよう。
              「マンホールは社会インフラ」 ということを、あらためて
              感じさせてくれる記録が詰まっている一冊です。

               

              私が好きなデザインマンホールはありませんが、行政、
              上下水道、ガス会社などの文字が刻まれているものも
              多く、書体をアートとして楽しむことができます。

              今でも、「制水弁」 の 「弁」 の字は作った職人さんの
              遊びも見られますが、昔のマンホールは絵がない分、
              「拓本にとりたい!」 と感じるものもありました。

               

              後半は、各都道府県のマンホールを紹介していますが、
              もはや撤去・交換されてしまったと思われる雰囲気の
              物が少なくありませんでした。まあ、初版が30年前
              なので、劣化による危険性を考えるとしごく当然。

               

              ネットもない時代に、一人で本や直接その団体・組織に
              問い合わせて、まとめ上げた著者・林氏の徹底した
              姿勢には、“わからないのはスルー” の私からすると、
              頭が下がるどころか、頭をマンホールに突っ込みたい
              くらいの思いです。

               

              また、この本を紹介してくださった 「日本マンホール蓋学会」
              の管理人様のおかげで、門司港から山口県へと通過
              できそうです。この場を借りて感謝申し上げます。
              http://sky.geocities.jp/usagigasi1f/

               

              (関門トンネルが2018年で60周年なので、おそらくこいつも還暦)

               

              おかげ様で、関門橋海底にある 「関門人道」 の
              山口県側の出口にあった “謎のマンホール” が
              旧建設省のマンホールだということがわかりました。


              お金と幸せの関係を追求する 『億男』

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                川村元気さんの 『億男』(文藝春秋社刊)を読みました。
                タイトルの通り、お金にまつわるストーリーです。
                正しくは、お金に翻弄されると言った方がいいでしょうか。
                実写映画化されるそうです。
                http://eiga.com/jump/Fe37c/

                 

                弟の借金を背負って、図書館司書とのダブルワークで
                借金返済のためのオーバーワークな日々を過ごす一男。

                 

                お金に振り回される日々に、妻との溝が深まり、妻は
                娘を連れて家を出てしまい、将来が見えない毎日を
                送っていた一男が、ひょんなことから宝くじを手に入れ、
                3億円当選! 一気に大金をつかんだ一男は、お金の
                使い方がわからなくなり、学生時代の友人・九十九に
                再会します。九十九は学生時代にIT関連で起業して
                大成功を収めたものの、会社を売却した経歴を持って
                いることから、大金を持って人生を踏み外さない方法を
                知っているのではないかと考えたからです。

                 

                ところが、再会したのも束の間、九十九が宝くじで
                当てた3億円を持って行方知れずに。

                 

                一男は、九十九の居場所を知っている可能性がある
                九十九と一緒に会社経営に携わっていた3人の仲間である
                十和子、百瀬、千住らに会い、九十九の行方を追うと
                同時に、会社売却で大金を得た彼らからお金についての
                それぞれの考え方と生き方を知っていく展開。

                 

                九十九は見つかるのか、そして一男は突然手に入った
                大金の使い方、お金との向き合い方が見つかるのか、
                サクサクと読み進められる作品です。

                 

                お金にまつわる言葉やエピソードも盛り沢山

                 

                作中には、一万円札の福沢諭吉の言葉をはじめ、実業家、
                神学者、作家、経済学者などのお金に関する金言のほか、
                お金の雑学も散りばめられています。

                 

                中でもチャップリンの 『ライムライト』 のセリフ、
                「人生に必要なもの。それは勇気と想像力と、ほんの
                少しのお金さ」 という言葉は冒頭にも登場し、後の
                展開のキーにもなっています。

                 

                また、九十九が学生時代に得意としていた落語の
                「芝浜」 もいい感じに生きていて、私は思わず
                「お金を九十九に持ち逃げされたという事実自体が
                夢落ちだったらどうしよう」 と、かなりズレた感覚で
                読み進めていました(笑)。

                 

                『億男』 の実写映画に出演予定の高橋一生さんの
                解説も、「芝浜」 に絡めた見事な文章で、正直
                驚きました。

                 

                “好きなら知りたくなる” はずなのに、知らなかった事実!

                 

                一男が到達した境地は、本書を読むか、映画を観るか
                していただくとして、私が感銘(?)を受けたのは
                1万円札が1円玉と同じ1グラムという事実!

                 

                1円玉が1グラムというのは、学校で浮力を学んだ時か
                何かで知っていましたが、1万円札も1グラムとは。
                縦76ミリ、横160ミリだそう。

                 

                その豆知識を一男に披露した九十九が 「本当に興味が
                あれば、お金をすべてを知ろうとするはずなんだ。
                (中略)だけど君は今までそんなものを見たことが
                ないだろうし、知ろうともしてこなかった。つまり、
                気味はお金に興味がないんだ」 と語るのです。

                 

                ってことは、1円玉の知識だけ入れてた私は、1円
                レベルでお金に翻弄されているのだろうか!?

                 

                日銀の 「貨幣博物館」 で、1億円の束を持ち上げた
                ことがあるのに、力自慢で終わってたかも?
                https://www.imes.boj.or.jp/cm/

                 

                九十九理論を頭に入れ、まずは1万円札のサイズは
                暗記してみることにしました。

                 

                【関連記事】
                ◇「貨幣博物館」 で1億円分持ったどー!
                http://nureinmal.jugem.jp/?eid=2062


                『ラプラスの魔女』 映画化は福士蒼汰さんの怪演に期待

                0

                  京都旅行について書いている間、本や漫画を読み、
                  映画にも行っていたので、溜まってる、溜まってる。
                  何から手をつければいいのか、すでに賞味期限切れの
                  ネタもあって、東野圭吾さんの 『ラプラスの魔女』
                  (角川文庫)から再稼働です。
                  http://www.laplace-movie.jp/

                   

                  櫻井翔さん主演で映画化されるようですが、彼が演じる

                  地球化学の研究者・青江は、ガリレオシリーズの
                  物理学者・湯川学と違って、ある意味、語り部的な
                  役割なので、意外とどーんと正面に出ずに距離を置いて
                  事件を見るという立ち位置は、櫻井さんに向いているし、

                  その距離感が地球化学者としてのクールさが際立つかも。

                   

                  文庫の裏表紙に書かれている程度に、ストーリーを
                  紹介すると、ある温泉地で硫化水素中毒で映画監督が
                  死亡するという事故が発生。年齢の離れた若い妻に
                  疑いの目が集中しますが、殺害の手段は特定できず。

                   

                  さらに数カ月後、今度は売れない俳優が同じように
                  別の温泉地で硫化水素中毒で事故死。

                   

                  その二つの事件を関連付けて動く警察官。温泉地の
                  安全性の調査を依頼され、偶然、両方の現場で同じ
                  若い女性を見かけた地球化学の研究者。それぞれの

                  角度から、その事件の共通性と、もしかすると
                  今後起きるかもしれない連続殺人を追うストーリー。

                   

                  フーダニットというよりは、「HOW」「WHY」 が焦点と
                  なるミステリーです。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』 を刊行
                  した角川文庫なので、東野作品の 『虹を操る少年』 や
                  『ナミヤ』 系のファンタジックな方に流れてしまうのか、
                  ガリレオ的に科学的なトリックになるのか、どっちに
                  ころぶかも読んでいてスリリング。

                   

                  最後の一行の意味深さも怖くていいので、ここは原作通り
                  に残してほしいところです。

                   

                  「一般の人が愛情と呼んでいるものは、脳に組み込まれた
                  単なるメカニズムに過ぎない」 という考え方も、現在
                  世の中で起きている現象を見ると事実のような気もするし、
                  それが幸福なことなのか、人間にとってそこを研究し
                  掘り下げるのは禁断なのか、最後の一行で問題提起されて
                  いるようにも感じました。

                   

                  広瀬すずさんは適役だと思いますし、『ちょっと今から
                  仕事やめてくる』 の死神的な役にも少しかぶるものがある
                  福士蒼汰さんの違った一面も見られそうで楽しみです。
                  逆に、福士蒼汰さんのファンの方は原作を読まないで
                  映画を観た方がインパクトあるような気もします。

                   

                  文庫の帯を見て、おそらく豊川悦司さんはこの役だろう
                  と思ったキャスティングとなっていました。

                   

                  ボディガード役の武尾役はできれば、高嶋政伸さんより
                  高嶋兄の方が私の印象には近かったです。
                  地味ながらも、ここ一番で光る美味しい役だし。

                   

                  原作を読んでから観た方がいい映画と、観なくても
                  監督が作り出す世界観で十分行ける映画に分けるなら、
                  こちらは後者かもしれません。

                   

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                  宮沢賢治という原石を輝かせた 『銀河鉄道の父』

                  0

                    第158回直木賞受賞作品の 『銀河鉄道の父』(門井慶喜著、
                    講談社刊)を読みました。宮沢賢治の父親である政次郎から
                    見た “息子・賢治” が描かれていて、一般的には信心深く、
                    農民に愛され、鉱物に詳しく、妹に優しいという聖人的な
                    イメージとは違った、人間味溢れる宮沢賢治像となっています。

                     

                    以前、塩野七生さんの著書で 『サロメの乳母の話』(新潮文庫)
                    という短編集の中に 「キリストの弟」 という、神とされる
                    キリストを家族から見た作品があって、母・マリアにとっては
                    さまざまな災難の元凶であり、最後は磔刑という逆縁の不幸を
                    もたらした息子としてのキリスト像が新鮮でしたが、この作品も
                    そうした驚きと発見があります。

                     

                    とくに、ある程度、宮沢賢治作品を知っていて、著者略歴
                    くらいの知識があると、さらに意外性を楽しめると思います。

                     

                     

                    私も 「宮沢賢治展」 のようなイベントがあると見に行く
                    くらいは好きなので、彼が富裕な家庭の長男として育ったことは
                    知っていましたが、農民から金貸しとして恨まれる質屋で成功
                    した家だったのは失念していました。

                     

                    また、太宰顔負けに親にお金の無心をしては、やりたいことを
                    探しているのか、家業を逃避しているのかもわからない、
                    いわゆるモラトリアムな青年期だったのも予想以上でした。
                    聖人的な要素がほとんどなし!

                     

                    それよりも、父・政次郎は、自分自身も成績は良かったのに、
                    「質屋に学問を必要ねぇ」 という彼の父からの言葉に従い、
                    浄土真宗を信仰し、質屋と陰口を言われつつも地元の名士と
                    して子供たちに教育を受けさせ、『永訣の朝』 でも有名な
                    娘・トシ、そして賢治を見送り、1957年まで生きた、一般的な
                    常識からすると立派な社会人です。

                     

                    片や賢治はというと、父の望まない学校に進学するわ、
                    日蓮宗系の宗教団体の活動をして金稼がないわ、さらには
                    親からの出資で人造宝石を作る事業をやるとか言い出すわ、
                    よく言えば自由人。一方で世間知らず。そのダメっぷりが

                    政次郎というフィルターを通すと、かわいく見えてしまうから

                    不思議です。

                     

                    そして、思った以上に病弱だったのですね。「雨ニモマケズ」
                    を賢治が病床で書かれていたと思われるエピソードもあり、
                    賢治一周忌に 「岩手日報」 が掲載したとい全文が引用
                    されていて、これまで以上に 「丈夫なカラダヲモチ」 という
                    一説の重さに泣けました。

                     

                    賢治が子供の頃に赤痢になった際は、政次郎が自ら賢治の
                    看護をして、そのために自分も体調を崩してしまい、以降、
                    消化器が弱くなって、彼が死ぬまで夏は粥しか食べられない体に
                    なってしまったというエピソードは、政次郎の偉大な父性が
                    象徴されていると思います。

                     

                     

                    商才もあり、世の流れを読んだ投資などもして稼いでいたと
                    いう政次郎だけに、明治の男の割に、息子のわがままにも
                    かなり柔軟なのには驚かされました。頭ごなしに怒らず、

                    適度にたしなめ、最終的には経済的な支援をするなど、

                    とにかく子煩悩。サウイフチチヲワタシハモチタカッタ。

                     

                    不器用な “石っこ” 賢治を、詩人・童話作家という銀河の
                    世界に導いた一人として、父・政次郎の存在があったことを

                    感じさせてくれる作品でした。

                     

                    何より、政次郎が長生きして、息子の作品が世に認められ、
                    おそらく教科書にも載るようになったのを知って、浄土に
                    行けたのは良かったと思えました。きっと、政次郎は夏に

                    なって粥を食べながらも、息子・賢治のことを思い出して

                    いたかもしれない…そんな微笑ましさも残るラストです。

                     

                    あめゆじゅとてちてやけんじゃ

                     

                    教科書では、たしか小学校か中学で 『よだかの星』、
                    高校で 『永訣の朝』 が載っていて、「あめゆじゅ
                    とてちてやけんじゃ」 の意味も脚注に書かれており、
                    妹・トシが死んだ時のエピソードを知りました。

                     

                    意味がわかりにくいのと、まだ脳細胞が成長期に
                    あったせいか、言葉としてでなく音で覚えています。

                    モデブリンとか、イーハトーブといった音楽的な

                    言葉も、宮沢賢治作品の魅力の一つだと思います。

                     

                    『風の又三郎』 は、母がよく歌っていたのと、家に
                    絵本がありました。そのせいか、今でも宮沢賢治作品は
                    『銀河鉄道の夜』 より、『風の又三郎』 が好きです。

                     

                    一番自分のイメージに近い挿絵画家の本に買い替えて、
                    行きついたのが、『宮沢賢治絵童話集・風の又三郎』
                    (伊勢英子イラスト、くもん出版刊)です。
                    ここまでで、3冊は買い替えたかも?

                     

                    伊勢英子さんの絵が、私にとってはしっくりとくるので
                    『水仙月の四日』(偕成社刊)も持っています。

                     

                    (別の宮沢賢治くんが活躍する 『文豪ストレイドッグス』)

                     

                    『銀河鉄道の夜』 は他の挿絵画家の本でゴールかなと
                    思っていますが、まだ 『セロ弾きのゴーシュ』 で
                    「これ!」 と決められる本と巡り合えません。
                    それはまあ、おいおい…。
                    まずは、『蜜蜂と遠雷』 が単行本になる前に読破せねば!

                     

                    【関連記事】
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                    ◇音や空気を感じる 『風の又三郎』
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                    ◇震災から5年 『萩尾望都作品集 なのはな』
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                    実はサイエンスホラー 『がん消滅の罠 完全寛解の謎』

                    0

                      2017年の 「このミステリーがすごい! 大賞」 作品
                      『がん消滅の罠 完全寛解の謎』(岩木一麻著、宝島社文庫)
                      をやっと読了しました。仕事の合間に読んでいたことや、
                      医学用語がかなり専門的なので、三歩進んで二歩戻ったり
                      していたこともあり、ちょっと時間がかかりました。

                       

                      大きく分けて解き明かす謎は3つ。
                      登場人物紹介を兼ねての小さなガン消滅エピソードと、
                      メインとなる 「湾岸医療センター」 で発生している
                      ガン消滅治療の謎が2パターンあるので、その3つです。

                      殺人事件ではなく、末期ガンの患者がなぜかその病院で
                      治療すると、見事にガンが消滅してしまう 「活人事件」
                      というテーマは面白いと思いました。

                       

                      そして、370ページある中の後半50ページくらいの
                      目まぐるしいどんでん返しや、ラスト1行までの意外性に
                      驚かされます。私はまず (゚Д゚) キョトーンでしたが…。

                       

                      ちなみに、ガンは英語では 「Cancer(カニ)」 なのに、
                      カニはガンになりにくいという雑学もあったりして満足。

                       

                      専門的な医学知識については、医師・研究者・保険会社の
                      登場人物たちが飲み会的な場で、一般人にわかりやすく、

                      解説してくれているので、何とかついていける感じでした。

                       

                      で、最後に感じたのは、これって医療系ミステリーでなく、
                      サイエンスホラーではないかということでした。
                      「このミステリーがすごい!」 の 「すごい」 は、本来の
                      意味の 「凄い=恐ろしい・非常に気味が悪い」 だと衝撃を
                      受けるかと思われます。

                       

                      ここからは今回言わずにはいられないネタバレ

                       

                      医学的な内容が専門的過ぎて、本当にそういったことが
                      可能なのか(行為ではなく現象として)、トリッキー
                      なのかが判断できないせいか、種明かしされてもどこか
                      もやもやが残りました。

                       

                      また、それぞれのキャラクターがストーリーのために
                      動いているようなことと、この作品の核となる先生の
                      人間性が今一歩わからない感じがしました。
                      中では、目立つキャラだった夏目の友人・羽鳥も作品の
                      重要な存在ではあったものの、とくに謎解きにおいては
                      最初のエピソードでしか活躍せず、ちょっと肩透かし。

                       

                      事務長の存在は必要だったと思いますが、エピソードは
                      親族がガンで多く亡くなっている私としては、末期ガンで
                      苦しんでいる様子を見ているだけに、あまり気分の良い
                      ものではありませんでした。どっちかというと妻の気持ちを
                      汲んであげられなかった先生の方が悪いのではないかと。

                       

                      実は、最後の1行については 「おお、やられた!」 と
                      ならず、私の場合、「どういう意味だ、こりゃ?」 と
                      思ったばかりか、「もしかして、死んだという娘も
                      最初の話と同じく、禁断の双子落ちか!?」 とまで
                      思ってしまい、伏線探しで再度367ページのくだりを
                      読みましたが、最後の1行になるのは強引と言うか、
                      かなり稀な偶然過ぎる気がして、やや納得いかないですが、
                      あれって、やはり367ページつながりなんでしょうね?
                      それすら自信がない私です。

                       

                      もやもやしていたところ、『相棒 season16』 の15話

                      「事故物件」 がレトロなミステリー調で気分転換になりました。


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